「終活」はワンセット 葬儀も墓も相続も一緒に

2014/06/06
■遺影写真やひつぎも体験
 
 4月下旬、イオンモール柏(千葉県柏市)の広場で、買い物客が熱心にパネルやスクリーンを見ていた。イオンが開いた「終活セミナー」だ。買い物のついでに立ち寄った45歳の主婦は「イオンのお葬式」について書かれたパネルの前で「火葬式には何が含まれているんですか?」と説明員に聞いていた。
 
 イオンは2009年に葬祭事業に参入し、11年から追加料金なし定額プランを打ち出した。現在、全国の葬儀社約500社と提携し、火葬式(20万3000円)、家族葬(50万8000円)など値ごろ感を打ち出す。
 
 1カ月に2カ所の店舗で開く終活セミナーでは、葬儀以外にも墓や相続、保険など終活にかかわる相談に無料で応じる。事業を開始した5年前は「チラシさえ受け取ってもらえなかった」(イオンリテール)が、最近では毎回500~1000人が集まる盛況ぶりだ。
 
 人気はひつぎや遺影写真の体験コーナー。「終活について具体的に考えてもらうきっかけになる」(イオンリテール・イオンライフ事業部の広原章隆事業部長)。元気なうちはピンとこない人も多いが、遺影写真やひつぎを体験した人は「ほぼ100%、事前登録してもらえる」という。
 
 事前登録とは、店頭やネットで名前や住所を登録しておき、施行時にすぐ対応できるようにしておく仕組み。店頭で個別相談に訪れた顧客からそれ以外に希望の葬儀スタイルや墓石の有無などを聞いておく。
 
 葬儀の施行件数(月約700件)のうち事前登録した人が6割を占める。現在は4万5千人が登録しており、目標は2020年までに20万人。事前登録が増えれば、収益の安定につながるという計算だ。
 
 葬儀は利益率の高い事業だが、イオンの場合、店頭などでの消費を喚起する狙いもある。55歳以上を「グランド・ジェネレーション世代」と呼び、グループ総力で囲い込む戦略だ。
 
 昨年11月からは店頭に「くらしのコンシェルジュ」を配置し、葬儀からリフォーム、家事代行までトータルで相談を受けられるようにしている。特に好調なのは12年から始めたペット葬の受注で、昨年比約3倍の伸び率で推移。「近いうちに『イオンのお葬式』と同じ規模になる」(広原部長)勢いだ。
 
 「葬儀社の会員制度と違いを出すために、生きているうちにメリットがあるようにしたい」(同)と、今後は事前登録者へのサービスを強化する。事前登録者に提供するカードに電子マネー「ワオン」を付けて日常の買い物で割引ができるようにしたり、家族会員制度を整えたりする計画だ。
 
■ネット活用、葬儀の早割も
 
 一方、09年に定額プランを他社に先駆けて始めたユニクエスト・オンライン。もともとは葬儀の価格比較サイトを運営しており、現在の施行件数は年間1万4千件(取扱高約42億円)。最大手でも3%弱といわれる葬儀業界(件数ベース)のシェアだが、同社は「1.4%を占める」(田中智也社長)までになった。
 
 実は同社は4年ほど前にイオンと交流があり、共同事業を模索したこともあったという。両社の料金プランや、全国の提携葬儀社に送客するという仕組みはほぼ同じだが、コンセプトや方向性は異なる。
 
ユニクエストが手掛ける「小さなお葬式」のイメージ
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ユニクエストが手掛ける「小さなお葬式」のイメージ
 「店舗が最大の武器」というイオンに対し、ユニクエストは「人件費より多い」というほどのネット広告費を投入するサイトを基軸としたビジネスモデルだ。
 
 イオンは50万8000円の家族葬プランが最も多いのに対し、緊急に依頼されるケースの多いユニクエストは最も安い17万3000円の火葬プランが半数を占める。
 
 ユニクエストも「生前に接点を持つことが課題」(田中社長)と囲い込みに乗り出した。3月から早割チケット(500円で最大5万7千円引き)のサービスを開始、7月までに月1500件の受注を見込む。
 
 早割チケットを購入した神戸市の加治夕起子さん(77)は義父の介護で苦労した経験もあり「子供や孫に迷惑をかけたくない」との思いから決めたという。
 
 生前の接点を開拓するといっても、他社が手掛ける終活セミナーはやらない。田中社長は「介護で疲れている人も多く、前向きな生前準備というのは少数派だ」と言い切る。もともと「死の前後にかかる費用を最小限にしたい」というのが同社の方針。増税で支出が増えるとみて、3月末には5000円の値下げをあえて断行。昨年から5~14万円の低価格仏壇の販売も始めた。
 
 今後は墓石事業や、仏壇や墓と葬儀のセット割引、法事法要のレストラン予約など事業領域の拡大を画策し、東証マザーズへの上場も計画している。ワンストップビジネスを構築しようとしている点ではイオンと重なり、今後も2社の競争が激しくなりそうだ。(安田亜紀代)
 
■支持広がる「明朗会計」
 
 
 「イオンの下請けになりたくない」(葬儀社大手)。異業種の攻勢に既存の事業者は危機感を募らせる。死亡者数は年々増えているが、小規模で簡素な葬儀に消費者が流れ、苦戦しているというのが葬儀社の現状だ。各社は金融機関と共同で相続のセミナーを実施したり、保険を始めたり、事業領域を拡大することで生き残りを図っている。
 
 互助会保証(東京・港)によると、09年の葬儀市場は1.7兆円。うち、シェア3割を占めるのが経済産業省の認可を受けた全国各地にある互助会だが、このシステムも岐路に立たされている。
 
 互助会とは生前に葬儀費用を積み立てておく仕組みで、前受け金の総額は2兆3600億円に及ぶ。最近では加入者が伸び悩み、解約手数料や追加料金でトラブルも発生している。「解約手数料が高い」「加入時の説明が不明確」。国民生活センターによると、互助会への苦情・相談が年間3千件以上も寄せられる。
 
 最近、互助会を解約したという千葉県柏市在住の71歳男性は「積み立てていた金額以外に数十万円かかることがわかった」と話す。互助会に限らず、オプションが多く、わかりにくい価格体系に不信感を持つ消費者は多い。「追加料金一切不要」と金額を明示したイオンやユニクエストが支持されるのはこうした背景がある。
 
 「明朗会計」をうたうユニクエストは、12年から寺と提携し「お気持ちで」と言われるお布施の料金も明確にした。現在300の寺と提携。その一つの京都市の寺の住職は「お布施や寄付の不透明さから、寺との接触を怖がる人が増えた。定額で安心してもらえるならと提携した」という。
 
 実はユニクエストが提携する葬儀社(約800社)の大半は葬儀会館を運営する全国各地の互助会だ。00年ごろまでは会館の新設ラッシュが続いたが「現在の会館の稼働率は1割以下。当社は空きのある時に葬儀会館を利用するビジネスモデルで、互助会とは直接競合しない」(ユニクエストの田中社長)。
 
 定額プランを打ち出す葬儀社も増えてきたが、業界を揺るがした“新参者”は次の成長に向けて先手を打とうとしている。

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